天蚕（てんさん）は「繊維のダイヤモンド」とも呼ばれる、とても貴重な天然繊維です。
普通の蚕（かいこ）ではなく、ヤママユガという野生の蚕が作る繭（まゆ）から取れる糸で、白い絹よりもやわらかく、軽くてしわになりにくい特徴があります。
そのため、高級な着物やスーツ、ショールなどに使われます。
しかし、天蚕の生産は今、大きな危機に直面しています。
生産者の減少や環境の変化が影響を与え、このままでは天蚕が市場から消えてしまうかもしれません。
天蚕の生産が減っている理由
飼育する人が減っている
天蚕の飼育には、たくさんの手間と特別な知識が必要です。
そのため、高齢の生産者が引退すると、新しく始める人がなかなかいません。
天蚕は昔から日本の伝統的な繊維として大切にされてきましたが、今では育てる人がどんどん減っています。
昔は日本全国で数百の農家が天蚕を育てていましたが、今では数十戸しか残っていません。
このままでは、天蚕が作られなくなってしまうかもしれません。
猿の被害が増えている
天蚕はクヌギという木の葉を食べて育ちます。山で育てるのですが、近年、野生の猿が繭を食べてしまう被害が増えています。
特に収穫前の繭が狙われるため、生産者にとって大きな問題です。
畑の作物を食べる動物被害と同じように、天蚕の生産にも影響が出ています。
猿だけでなく、他の野生動物による被害も問題となっており、生産者は対策を考えなければなりません。
高すぎる値段が広まるのを妨げる
天蚕糸は1キログラムあたり70万円にもなることがあります。
とても貴重な素材なので価格が高いのですが、そのために使える人が限られてしまいます。
天蚕の生産量が少ないことも価格の高さにつながっています。
もっと安く生産できれば、多くの人に広まるかもしれません。
価格が下がれば、天蚕の魅力をより多くの人に知ってもらう機会が増えるでしょう。
天蚕のすごいところ
美しい光沢と高級感
天蚕糸は普通の絹よりもしなやかで、上品な光沢があります。
そのため、高級な着物や帯に使われ、特別な日の衣装として愛されています。
また、スーツやドレスにも使われることがあり、海外のデザイナーからも注目されています。
天蚕の持つ独特の輝きは、他の繊維にはない魅力を持ち、見る人を魅了します。
日本の伝統工芸としても価値が高く、今後も大切に守られるべき素材です。
医療やハイテク分野での活用
天蚕の糸はとても丈夫で軽いので、医療やハイテク産業にも利用できる可能性があります。
例えば、人工血管や手術に使う糸など、人体にやさしい素材としての研究が進められています。
また、軽くて強い性質を持つため、高性能な繊維素材としてスポーツ用品や宇宙産業などでも活用が期待されています。
新しい技術と組み合わせることで、天蚕の可能性はさらに広がるでしょう。
環境にやさしい
天蚕は自然の中で育つため、化学薬品を使う必要がありません。
そのため、環境にやさしいエコ素材としても注目されています。
最近では、サステナブルなファッションが流行しているため、天蚕もエコ素材として評価されるようになってきています。
化学繊維とは違い、自然に還る繊維なので、地球環境への負担を減らすことができます。
天蚕を未来につなぐためには
観光地としての活用
天蚕の生産地を観光地にし、実際に育てたり繭から糸を作ったりする体験を提供すれば、多くの人にその魅力を知ってもらえます。
修学旅行や自由研究のテーマとしても活用できるでしょう。
観光と結びつけることで、地域活性化にもつながり、天蚕の魅力を伝える場が増えます。
体験を通じて天蚕に興味を持つ人が増えれば、新しい担い手も出てくるかもしれません。
技術を使って効率を上げる
AIやIoT（モノのインターネット）を活用して、天蚕の成長を管理したり、猿の被害を防いだりする方法を開発することで、生産を続けやすくすることができます。
天蚕の育成状況をセンサーでチェックし、最適な環境を作ることができれば、生産の安定化につながります。
テクノロジーを活用することで、伝統産業を未来へとつなぐことができるでしょう。
学校での学習に取り入れる
天蚕を学校の授業で扱えば、若い世代にも関心を持ってもらえます。
実際に繭から糸を作る体験を通じて、日本の伝統産業を学ぶことができます。
理科や家庭科の授業で扱うことで、実際に手を動かしながら学ぶ機会が増えます。
教育の場で天蚕を知ることで、将来の担い手を増やすことができるかもしれません。
まとめ ：天蚕を未来へつなげよう
穂高天蚕糸は、安曇野市穂高有明で飼育されるヤママユガの繭から取れる絹糸で、エメラルドグリーンの光沢が特徴。
天蚕は日本の伝統を支える貴重な繊維ですが、生産が続けられなくなる可能性もあります。
しかし、技術の進歩や観光資源化、学校教育への導入など、さまざまな方法で未来につなげることができます。
私たち一人一人が天蚕に興味を持ち、その魅力を知ることが、伝統を守る第一歩になります。
天蚕の美しさや価値を伝え、次の世代へと受け継いでいきましょう。
