オンラインカジノによる違法賭博の拡大が深刻化し、警察庁は約337万人の国内利用者がいると指摘しています。
これに対応するため、総務省はサイトへの接続を遮断する「ブロッキング制度」の導入を検討中です。
しかし、憲法21条の「通信の秘密」との関係や技術的実効性を巡り、導入にはさまざまな論点があります。
本記事では、制度の狙いと課題、過去の事例を踏まえた展望を詳しく解説します。
オンラインカジノの現状と社会的な影響

違法オンラインカジノの利用が国内で急増しています。
警察庁によると、2024年のオンラインカジノ関連の立件者数は前年の2.6倍に相当する279人に上り、賭け金総額は約1.2兆円に達しました。
依存症リスクが高まっており、特に20〜30代の若年層がSNSやインフルエンサーの紹介を通じて容易にアクセスできることが問題視されています。
多くのサイトは海外サーバーを経由しており、摘発が困難です。
また、利用者自身が「違法」であることを十分に理解していないケースも多く、法教育の不足も課題とされています。
総務省が検討するブロッキング制度の概要

2025年4月、総務省は新たに有識者会議を設置し、違法オンラインカジノサイトへの「強制的接続遮断」、いわゆるブロッキングの制度設計を本格的に開始する方針を明らかにしました。
制度設計では、海賊版サイト「漫画村」の問題で頓挫した過去の経験も教訓にされます。
制度導入の目的は、国民が不用意に違法サイトへアクセスしないようにすること。
対象は、明らかに違法と認定されるオンラインカジノサイトとされる予定です。
通信の秘密と憲法上の問題
憲法21条が保障する「通信の秘密」は、個人が誰とどのような通信をしているかを国家が干渉しないという、非常に重要な権利です。
弁護士の佐藤健一さん(日本情報法学会所属)は、「サイトブロッキングを行うためには、アクセス先の情報を検知する必要があり、それは事実上、通信内容の傍受と同等の意味を持つ可能性がある」と指摘します。
実際、過去に児童ポルノや海賊版サイトを対象にブロッキングが実施された際も、違憲性を疑問視する声が多く上がりました。
今回の制度も同様に、慎重な法解釈と運用が求められています。
知る権利と情報遮断への懸念

今回のブロッキングでは、対象が「児童ポルノ」から「違法ギャンブルサイト」へと拡大するため、情報遮断が過剰になる懸念もあります。
特にサイトの「違法性の線引き」が曖昧な場合、合法サイトまで誤ってブロックされるリスクが生じます。
情報法に詳しい中村綾子さん(中央大学法学部教授)は、「国が恣意的に情報の流通を制限するような制度は、報道や言論の自由に悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らしています。
技術的な実効性とVPNの回避問題
技術的には、DNS(ドメインネームシステム)を通じたブロッキングやIPアドレスベースの遮断が想定されています。
しかし、近年ではユーザーがVPN(仮想プライベートネットワーク)を使うことで、容易にこれらのブロックを回避することが可能です。
通信事業者関係者の田村正彦さん(某大手キャリア技術部長)「VPNやミラーサイトを使った再アクセスを完全に防ぐのは不可能に近い。
抜本的な対策には、国際的な連携やフィンテック対策も必要だ」と語ります。
通信事業者との連携と業界の反応
総務省は通信事業者との連携も重視しており、違法・有害情報に対応する契約条項のモデル案を策定中です。
これは、ISP(インターネットサービスプロバイダ)各社が、自社の利用規約に違法オンラインカジノへのアクセスや広告掲載を禁止する内容を組み込むことを促すものです。
一方で、事業者側からは「表現の自由やユーザーの信頼を損なう可能性がある」との懸念の声も根強く、業界全体としての足並みはまだ揃っていません。
他国の事例と制度設計のヒント

例えば、ドイツやオーストラリアでは、違法ギャンブルや海賊版サイトに対するブロッキング制度が導入されており、それに基づいたアクセス遮断が実施されています。
ただし、それらの国でもVPNや匿名性の高いネットワークによる回避は課題となっており、単独の措置だけで問題を解決できないのが現実です。
また、EUではGDPR(一般データ保護規則)との整合性が求められ、利用者のプライバシーを侵害しない運用が重要とされています。
これらの事例を踏まえて、日本でもバランスの取れた制度構築が求められます。
今後の議論の展望と社会的な意義
総務省は、有識者会議で法律・通信技術・人権分野の専門家を交えた包括的な議論を進める方針です。
過去の失敗を教訓に、「何を、どこまで、どのように遮断するか」の明確な基準づくりが求められます。
また、制度導入だけでは不十分であり、教育現場やメディアを通じた違法性の啓発、ギャンブル依存対策、金融機関との連携による決済遮断といった多面的アプローチが必要です。
まとめ
- 総務省は違法オンラインカジノ対策として接続遮断制度を検討中です。
- VPNやミラーサイトによる回避手段も課題です。
- 業界関係者や法学者による有識者会議で慎重に議論中です。
- 情報遮断による知る権利の侵害も懸念されています。
- 制度だけでなく教育や金融連携による対策も重要です。