部活動現場の不適切指導が相次ぐ、体罰根絶への取り組み進むも「勝てるなら」容認の声

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部活動の現場で不適切な指導が相次いでいる。2025年1月には長野県の佐久長聖高校で部員をバスに乗せず徒歩移動させる事案が、9月には広陵高校で部員に正座を強いる指導が明らかになった。スポーツ界では体罰根絶への取り組みが進み、相談件数は2024年度に過去最多の536件を記録している。一方で、指導者と選手の信頼関係があれば体罰を容認する声は2013年の62%から2022年には14%へと大幅に減少した。しかし「勝てるなら」と不適切指導を容認する保護者の存在も指摘され、教育現場とスポーツ指導の狭間で揺れる部活動の実態が浮き彫りになっている。

この記事で得られる情報

相次ぐ不適切指導事案 佐久長聖高校と広陵高校で明らかに

■ 主な不適切指導事案の概要
項目 内容
佐久長聖高校の事案 2025年1月、女子バスケットボール部の遠征時、あいさつができなかった部員10人をバスに乗せず約7km徒歩移動させる
広陵高校の事案 2025年4月、寮の清掃時間に騒いでいた部員1人に約1分間廊下で正座させる
処分内容 佐久長聖高校:顧問を厳重注意 / 広陵高校:コーチに3カ月間の謹慎処分
発覚の経緯 広陵高校は部員へのアンケート調査で判明
学校側の対応 指導方法の改善、指導体制の見直しを表明
処分決定機関 日本学生野球協会審査室会議(9月4日開催)
処分対象校数 高校14件、大学3件
社会的影響 広陵高校は8月の夏の甲子園出場を途中辞退

長野・佐久長聖高校が実施した”徒歩移動” バスケ部遠征で2025年1月に発覚

長野県の佐久長聖高校女子バスケットボール部で、2025年1月に不適切な指導が行われていたことが明らかになった。遠征先の宿泊施設から対戦相手校への移動の際、部員15人のうち10人が「あいさつができなかった」という理由でバスへの乗車を拒否され、約7kmの道のりを徒歩で移動させられたという。学校側はこの事実を認め、顧問に対して厳重注意の処分を下すとともに、「指導方法の改善に努めたい」とのコメントを発表した。

この事案は、部活動における指導の在り方に一石を投じるものとなった。遠征という疲労が蓄積しやすい状況下で、体力的な負荷を懲罰的に課すことの是非が問われている。特に冬季の長距離徒歩移動は、生徒の安全面からも問題視される行為である。スポーツ指導の専門家からは「規律を守らせることと、身体的な苦痛を与えることは別次元の問題だ」との指摘が上がっている。

バスケットボール部の保護者の中には、「厳しい指導も必要」との声がある一方で、「行き過ぎた指導ではないか」と疑問を呈する声も聞かれた。学校側は再発防止に向けて、指導者向けの研修プログラムを実施する方針を示している。この研修では、適切な叱責の方法や、生徒の心身の安全を最優先にした指導技術の習得を目指すという。

佐久長聖高校は県内でも強豪として知られるバスケットボール部を擁しており、今回の事案は地域社会にも衝撃を与えた。学校関係者は「競技力向上と人間教育のバランスを見直す契機としたい」と述べ、部活動の在り方そのものを検証する姿勢を示している。保護者説明会も開催され、透明性のある情報開示と再発防止策の徹底が約束された。

広陵高校で明らかになった”正座指導”と甲子園辞退の背景

広島県の広陵高校野球部では、2025年4月に寮の清掃時間中に騒いでいた部員1人に対し、コーチが約1分間にわたって廊下で正座をさせる不適切な指導を行っていたことが判明した。この事実は、8月の夏の甲子園出場辞退後に実施された部員へのアンケート調査で明らかになったもので、学校側が指導体制の見直しを進める中で浮上した。日本学生野球協会は9月4日の審査室会議で、このコーチに3カ月間の謹慎処分を科すことを決定した。

広陵高校は甲子園常連校として全国的に知られる強豪校である。しかし、今回の一連の不祥事により、8月の夏の甲子園大会への出場を途中で辞退するという異例の事態に至った。学校側は「勝利至上主義に陥っていた」との反省を表明し、指導方針の抜本的な見直しに着手している。保護者の一部からは「甲子園に出場してほしかった」との声も上がったが、学校側は「生徒の健全な成長を最優先する」との方針を貫いた。

部員へのアンケート調査では、正座指導以外にも複数の気になる事案が報告されたという。学校側はこれらすべてを精査し、外部の専門家を交えた第三者委員会を設置して徹底的な調査を行う方針だ。野球部のOBからは「厳しい指導が伝統だったが、時代に合わせて変わるべきだ」との意見が寄せられている。一方で「ある程度の厳しさは必要」との声も根強く、指導の在り方をめぐる議論は継続している。

広陵高校の対応は、他の学校にとっても重要な先例となる可能性がある。不祥事発覚後の迅速な調査、透明性のある情報開示、外部専門家の活用といった一連のプロセスは、教育機関としての責任を果たす姿勢として評価されている。今後、同校がどのような指導体制を構築し、競技力と人間教育の両立を実現していくかが注目される。

■ 体罰・不適切指導に対する意識の変化
項目 2013年 2022年 変化
高校時代までに体罰を受けた経験(スポーツ経験のある大学生) 33% 17% 半減
信頼関係があれば体罰はあってもいいと回答した割合 62% 14% 大幅減少(48ポイント減)
スポーツにおける暴力行為等の相談件数 データなし 536件(2024年度) 過去最多
相談窓口の認知度 低い 高い 根絶活動の進展により向上
子どもが相談しやすい体制 未整備 整備済み 相談のハードルが低下

2012年桜宮高校事件が投げかけた”体罰根絶” スポーツ界に込めた変革への思い

部活動における体罰問題を語る上で避けて通れないのが、2012年に大阪市立桜宮高校で発生した痛ましい事件である。男子バスケットボール部に所属していた生徒が、顧問からの体罰を苦に自ら命を絶った。この事件は日本のスポーツ界に大きな衝撃を与え、体罰根絶に向けた取り組みの契機となった。事件後、文部科学省やスポーツ庁は全国の学校に対して体罰の実態調査を実施し、各競技団体も独自のガイドラインを策定するなど、組織を挙げての改革が始まった。

桜宮高校の事件以降、スポーツ界では「暴力に頼らない指導」の確立が急務となった。日本スポーツ協会は「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」を設置し、選手や保護者が匿名で相談できる体制を整えた。この窓口への相談件数は年々増加しており、2024年度には過去最多の536件に達している。ただし、この増加は暴力行為自体が増えているわけではなく、相談しやすい環境が整ったことで、これまで表面化しなかった事案が報告されるようになったと分析されている。

相談窓口の認知度向上には、各競技団体や学校現場での啓発活動が大きく寄与している。ポスターやパンフレットの配布、ウェブサイトでの情報発信、さらには部活動の顧問向け研修での周知徹底など、多角的なアプローチが功を奏した。特に子ども自身が相談しやすいよう、電話だけでなくメールやSNSでの相談受付も開始したことで、若年層からの相談が大幅に増加したという。窓口担当者は「些細なことでも相談してほしい。早期発見が被害の拡大を防ぐ」と呼びかけている。

スポーツ経験のある大学生を対象にしたアンケート調査では、体罰に対する意識の変化が明確に表れている。2013年には「高校時代までに体罰を受けたことがある」と回答した学生が33%だったのに対し、2022年には17%と半減した。さらに「指導者と選手の信頼関係があれば、体罰はあってもいい」という設問に対して肯定的な回答をした学生は、2013年の62%から2022年には14%へと激減している。この数字は、若い世代の間で「体罰は決して許されない」という認識が広く浸透しつつあることを示している。

しかし、体罰根絶への道のりは決して平坦ではない。スポーツ指導の現場では今も「厳しさ」と「暴力」の境界線をめぐる議論が続いている。ある高校野球の指導者は「声を荒げることと手を上げることは違う。しかし、どこまでが許容範囲なのか悩むこともある」と本音を漏らす。また、保護者の中には「ある程度厳しくしてもらわないと、子どもが成長しない」との声もあり、指導現場と保護者との認識のズレも課題として浮上している。

専門家は「体罰に頼らない指導法の確立には、指導者教育の充実が不可欠だ」と指摘する。怒鳴ったり叩いたりせずに、選手のモチベーションを高め、技術を向上させる手法は存在する。しかし、そうした科学的な指導法を学ぶ機会が十分に提供されていないのが現状だという。日本スポーツ協会は指導者資格の更新制度を導入し、最新の指導理論やコミュニケーション技術を学ぶ機会を設けているが、すべての部活動顧問がこうした研修を受けているわけではない。学校現場での指導者教育の拡充が、体罰根絶への鍵を握っている。

桜宮高校の事件から13年が経過した今、スポーツ界は確実に変わりつつある。しかし、完全に体罰がなくなったわけではない。佐久長聖高校や広陵高校の事例が示すように、形を変えた不適切な指導は今も存在する。体罰という露骨な暴力は減少したものの、精神的な圧迫や過度な肉体的負荷など、新たな形の「ハラスメント」が問題化しつつある。スポーツ界全体で「何が不適切なのか」という共通認識を醸成し、選手の人権を守りながら競技力を高める指導法を確立していくことが求められている。

🔄 体罰・不適切指導への対応フロー

①発見・相談 → 本人・保護者・第三者が暴力行為等相談窓口に連絡

②初期対応 → 窓口担当者が詳細をヒアリング、緊急性を判断

③調査開始 → 学校・競技団体が事実関係の調査を実施

④事実確認 → 関係者への聞き取り、証拠の収集

⑤処分決定 → 審査会議で処分内容を決定(厳重注意〜謹慎処分等)

⑥再発防止 → 指導者研修の実施、指導体制の見直し

⑦継続監視 → 定期的なアンケート調査で現場の声を拾い上げ

よくある質問

Q1: 体罰と厳しい指導の違いは何ですか?

A: 体罰は身体的な苦痛や精神的な屈辱を与える行為を指し、法律で禁止されています。一方、厳しい指導とは高い目標設定や反復練習など、選手の成長を目的とした指導です。重要なのは、選手の人格を尊重し、暴力や威圧に頼らないことです。

Q2: 不適切な指導を受けた場合、どこに相談すればいいですか?

A: 日本スポーツ協会が運営する「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」に連絡できます。電話、メール、SNSでの相談が可能で、匿名での相談も受け付けています。また、学校のスクールカウンセラーや教育委員会への相談も有効です。

Q3: なぜ相談件数が増加しているのですか?

A: 相談窓口の認知度が向上し、子どもでも相談しやすい体制が整備されたためです。暴力行為自体が増えているわけではなく、これまで表面化しなかった事案が報告されるようになったと分析されています。相談しやすい環境づくりが進んだことの表れといえます。

Q4: 保護者の中には厳しい指導を望む声もあると聞きますが?

A: 「勝つためには厳しさも必要」と考える保護者がいるのは事実です。しかし、厳しさと暴力は別物です。科学的な指導法に基づいた厳しいトレーニングは有効ですが、体罰や不適切な指導は選手の心身に悪影響を及ぼします。保護者も正しい指導の在り方を理解することが重要です。

Q5: 指導者は体罰に頼らない指導法をどこで学べますか?

A: 日本スポーツ協会が実施する指導者資格講習会や、各競技団体が開催する研修会で学ぶことができます。最新のスポーツ科学に基づいた指導法、選手とのコミュニケーション技術、メンタルトレーニングの手法などが提供されています。また、オンライン講座も充実してきています。

Q6: 今回の佐久長聖高校や広陵高校のケースから何を学ぶべきですか?

A: 一見「体罰ではない」と思われる指導でも、選手に過度な身体的・精神的負担を強いる行為は不適切だということです。懲罰的な徒歩移動や正座の強要は、指導として不適切と判断されました。何が不適切かの基準を常にアップデートし、選手の人権を最優先する姿勢が求められています。

■ 部活動における体罰・不適切指導問題のまとめ
項目 内容
最近の主な事案 佐久長聖高校(徒歩移動強要)、広陵高校(正座指導)など
契機となった事件 2012年大阪市立桜宮高校バスケ部での体罰自殺事件
相談件数の推移 2024年度に過去最多の536件(相談しやすい環境が整備された結果)
意識の変化 体罰経験者:33%→17%(2013→2022)、体罰容認:62%→14%(同)
相談窓口 日本スポーツ協会「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」(電話・メール・SNS対応)
残された課題 指導者教育の充実、保護者との認識共有、新たな形のハラスメント対策
今後の方向性 科学的指導法の普及、選手の人権尊重、透明性のある指導体制の構築

スポーツ界が示した『勝利至上主義の外側』にある本質的価値

部活動における体罰や不適切指導の問題は、単なる指導方法の是非を超えて、スポーツの本質的な価値とは何かを問いかけている。2012年の桜宮高校事件以降、スポーツ界は「勝つこと」だけを目的とした指導からの脱却を模索してきた。相談件数の増加や意識調査の結果が示すように、確実に変化は起きている。しかし、佐久長聖高校や広陵高校の事例が物語るのは、形を変えた不適切な指導が今も現場に残っているという現実である。

「勝てるなら多少の厳しさは仕方ない」という保護者の声は、スポーツが持つ競争という側面の魅力を物語っている。しかし、勝利と引き換えに選手の尊厳や心身の健康を損なうことは決して許されない。スポーツが本来持つべき価値とは、フェアプレー精神、仲間との絆、困難を乗り越える力の育成、そして何より人間としての成長である。体罰や不適切指導は、これらの本質的価値を損なうだけでなく、選手の人生そのものに深い傷を残す可能性がある。

今、スポーツ界に求められているのは、暴力に頼らずとも高い競技力を実現できることを証明し続けることだ。科学的なトレーニング理論、選手との対話を重視したコーチング、メンタル面のサポート体制など、体罰に代わる効果的な指導法は既に確立されている。問題は、これらの知見がすべての指導現場に行き渡っていないことである。指導者教育の充実、保護者への啓発活動、そして何より選手自身が「おかしい」と声を上げられる環境づくりが、体罰根絶への確実な道筋となる。

広陵高校が甲子園出場を辞退してまで指導体制の見直しに取り組んだ姿勢は、スポーツ界全体への重要なメッセージである。目先の勝利よりも、選手の健全な成長を優先する決断は、多くの教育関係者に勇気を与えた。部活動の現場で起きている変化は、日本のスポーツ文化そのものの転換点を示している。体罰や不適切指導が完全になくなる日まで、スポーツ界は歩みを止めてはならない。選手一人ひとりの人権が尊重され、真の意味で成長できる環境を作ることこそが、スポーツが社会に果たすべき役割なのである。

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