鴻海精密工業のEV戦略とは？日産買収で変わる自動車業界の未来

鴻海精密工業（Foxconn）は、台湾を代表する世界的な企業で、電子機器の受託製造において圧倒的なシェアを誇ります。

特に、AppleのiPhoneの組み立てを手がけていることでその名が知られています。

しかし、近年では、同社の事業領域は多岐にわたっており、特に新しい成長分野である電気自動車（EV）産業への進出に力を入れています。

この進出は、テクノロジーの進化と製造力を最大限に活かす戦略的な方向性であり、鴻海が今後どのように自動車業界に革新をもたらすのかは注目のポイントです。

さらに、最近では日産自動車に対して買収提案を行ったこともあり、その動向に注目が集まっています。

以下では、鴻海精密工業の詳細な歴史、事業内容、EV産業への進出、そして日産との関係について深堀りしていきます。

鴻海精密工業の基本情報と成り立ち

企業概要と創業の背景

鴻海精密工業は、1974年に台湾の郭台銘（テリー・ゴウ）氏によって創業されました。

1974年、郭台銘は母親から資金を借り入れ、台北の郊外に小さな工場を設立しました。

当時の従業員はわずか10人で、資本金は10万新台湾元（約36万円）という小規模な事業からスタートしました。

この謙虚な始まりが、今日の世界的な電子機器製造サービス（EMS）企業へと成長する礎となったのです。

最初は小規模な電子機器部品を製造する会社でしたが、その後急成長を遂げ、世界的な受託製造業者（EMS: Electronic Manufacturing Services）として知られるようになりました。

特に注目すべきは、AppleのiPhoneをはじめ、数多くのエレクトロニクス製品の製造を手掛けている点です。現在、AppleのiPhoneは鴻海の生産ラインで主に組み立てられており、その規模は膨大です。

鴻海は、最初のころから高い生産能力と効率性を持つことで、業界の競争力を維持してきました。

テリー・ゴウ氏は、自らのビジョンを基に強力な経営方針を打ち立て、企業の拡大を加速しました。

その結果、鴻海は現在、世界最大の電子機器受託製造企業となり、EMS業界のリーダーとして君臨しています。

グローバル展開と売上規模

鴻海の成長は世界的であり、製造拠点を世界各地に展開しています。

中国を中心にした製造工場はもちろん、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアなどに拠点を構えており、グローバルな供給網を持っています。

鴻海の売上高は、数十兆円に達し、特にAppleとの取引が大きな収益源となっています。

その他にも、Sony、Dell、HPなどの大手企業からも受注を受けており、その影響力は計り知れません。

鴻海のビジネスモデルは、受託製造だけでなく、企業の製品開発にも積極的に関与しており、デザインから製造、販売に至るまでの一連のプロセスをサポートしています。

これにより、製品の品質向上と効率的な生産が実現されています。

鴻海の事業内容と多角化戦略

受託製造業（EMS）からの進化

鴻海は、電子機器の受託製造業としてスタートし、その後も多くの企業の製品を組み立ててきました。

主な製品には、スマートフォンやコンピュータ、家電製品などが含まれます。

特にApple製品の製造を担当しており、iPhoneやiPadの組み立ては鴻海の重要な事業部門となっています。

鴻海は、Appleの生産を担当する中で、製造コストの削減と生産性向上のための革新技術を導入し、世界中にその影響力を拡大していきました。

近年では、受託製造だけでなく、自社ブランドの製品や、AI（人工知能）、**IoT（インターネット・オブ・シングス）**などの最先端技術への投資も進めています。

これにより、鴻海はテクノロジー企業としての多角化を進め、将来的な成長の基盤を築いています。

電気自動車（EV）事業への進出

自動車産業、特に**電気自動車（EV）**の分野への進出は、鴻海の成長戦略の中でも非常に重要な位置を占めています。

自動車産業は現在、テクノロジーと製造の融合が求められる分野であり、鴻海はその製造能力を活かして、EV開発にも積極的に取り組んでいます。

MIH（Mobility in Harmony）プラットフォーム

鴻海は、EV事業を本格化させるために、MIHプラットフォームという新しい事業部門を立ち上げました。

MIHは、電気自動車の開発を支援するためのプラットフォームであり、特に標準化を推進し、複数の企業と提携してEV技術の開発を行っています。

このプラットフォームは、車両の設計、バッテリー管理、エネルギー効率、駆動システムなどを統合したもので、他の自動車メーカーやテクノロジー企業と協力し、EVの普及を加速させることを目的としています。

鴻海のEV生産体制

鴻海は、2025年には自社ブランドのEVの量産を開始する予定であり、商用車を中心にEVを製造・販売する計画を進めています。

この新しい取り組みは、単に自動車を製造するだけでなく、自動車産業のデジタル化やコネクテッドカー（車両とインターネットをつなげた車両）の導入を視野に入れています。

特に、スマートモビリティの分野において、テクノロジー企業としての強みを活かし、他の自動車メーカーとの連携を深めることが予想されます。

日産自動車との関係と買収提案

日産自動車の経営不振

日産自動車は、近年の業績不振が深刻であり、特に米国や中国市場での販売不振が問題となっています。

2024年9月の決算では、純利益が前年同期比93.5%減少しており、経営再建が急務となっています。

このような状況の中で、日産は外部の資本や支援を求めており、鴻海精密工業がその支援先として注目されています。

鴻海による買収提案

鴻海は、日産自動車に対して買収提案を行ったとされており、その理由としては、日産が持つEV技術や生産能力を活用し、自社のEV事業を強化する狙いがあると考えられます。

鴻海は、日産の強力な製造インフラや世界規模の販売網を手に入れることで、EV市場でのシェア拡大を目指している可能性があります。

日産の買収が実現する場合のメリット

鴻海が日産を買収することで、以下のような戦略的なメリットが期待されます：

EV技術の強化：日産はEV市場において先駆的な技術を持っており、鴻海がこれを手に入れることで、EVの技術力を大きく強化できます。

製造能力とスケールメリット：日産が持つ広大な製造設備と販売網を活用すれば、鴻海はEVの生産効率を向上させ、コスト削減を実現できます。

グローバルな市場展開：日産は世界中で販売しているため、その販路を活かして鴻海はEVの普及を加速できる可能性があります。

鴻海の今後の展望とリスク

今後の成長と挑戦

鴻海精密工業は、EV産業を含む多角化戦略を進めており、その成長は今後ますます加速すると見込まれています。

しかし、自動車産業は技術革新と規制の変化に敏感な分野であり、新たな技術や生産プロセスの導入に多大な投資が必要です。

さらに、競争も激化しており、他の自動車メーカーやテクノロジー企業との協力と競争のバランスをうまく取ることが求められます。

日産買収の実現可能性とリスク

日産の買収が実現した場合、鴻海は自動車業界において大きな地位を占めることになるでしょう。

しかし、買収交渉には株主の合意や規制の問題が絡むため、必ずしもスムーズに進むわけではありません。

特に、日産の株主であるルノーとの調整が重要なポイントとなります。

まとめ

鴻海精密工業（Foxconn）は、電子機器の受託製造業から進化し、現在はEV事業に本格的に進出しています。

特に、MIHプラットフォームを通じてEV技術の開発を推進しており、2025年には自社ブランドのEV投入を予定しています。

これにより、EV市場でのシェア拡大を目指しています。その戦略の一環として、日産自動車への買収提案が浮上しています。

鴻海の進出は自動車業界に新たな変革をもたらす可能性があり、その動向は業界全体に大きな影響を与えるでしょう。