外務省SNSで中国宣伝戦に対抗、激化避けるため表現抑制

事態の概要 何が起きているのか

2025年11月、日中間で新たな情報戦が展開されています。発端となったのは、高市首相の台湾有事に関する国会答弁です。この答弁に対し、中国側が強い反発を示し、SNSなどを通じた宣伝戦を繰り広げる事態となりました。

これまで外交上の対立については、公式の外交ルートや記者会見での発言が主な対応手段でしたが、今回外務省はSNS、特にXを活用した情報発信という新たな手法を採用しました。中国による事実と異なる主張に対し、客観的なデータや統計を用いて反論する取り組みを開始したのです。

一方で、外務省は対立のエスカレートを避けるため、投稿内容については慎重な姿勢を維持しています。感情的な表現や過度に挑発的な言葉を避け、あくまで事実の提示に徹する方針を取っており、発信強化と慎重さのバランスに腐心している状況です。

発生の背景 台湾有事答弁から宣伝戦へ

今回の情報戦の背景には、高市首相の台湾有事に関する国会答弁があります。この答弁に対し、中国政府は強い反発を示し、対抗措置として複数の行動を取りました。まず11月14日には、中国国民に対して訪日自粛を呼びかける異例の措置を発表しました。

この訪日自粛の呼びかけにおいて、中国側は理由として「日本の治安が悪化している」「中国人に対する犯罪も多発している」と主張しました。客観的なデータに基づかないこの主張は、日本の国際的なイメージを損なう可能性があり、外務省が反論に動く契機となりました。

さらに11月21日には、在日本中国大使館がXに投稿を行い、国連憲章の「敵国条項」に言及しました。この投稿では、日本などに対して中国を含む国連創設国が「直接軍事行動を取る権利を有する」との主張が展開され、国際法の解釈を巡る論争にも発展しています。この一連の動きが、外務省のSNS対応強化の背景となっています。

外務省の具体的対応 データで反論

外務省は中国側の主張に対し、感情的な反論ではなく、客観的な事実とデータに基づく情報発信を選択しました。特に「日本の治安が悪化している」「中国人に対する犯罪が多発している」という主張に対しては、具体的な統計データを用いて反論しています。

外務省はXに、日本国内で中国国籍の人が被害者となった凶悪犯罪の数年分の認知件数を表形式で投稿しました。このデータは、認知件数が横ばいで推移していることを明確に示しており、「犯罪が多発している」という中国側の主張が事実と異なることを証明する内容となっています。

このアプローチは、国際社会に向けて日本の立場を明確にするとともに、感情的な応酬に陥らないという外交的配慮を両立させる試みです。データという客観的な証拠を提示することで、第三者にも検証可能な形で反論を行っているのが特徴です。

中国側の主張内容 治安悪化と軍事行動

中国側が展開している主張は、大きく分けて二つの柱で構成されています。第一の柱は、日本の治安状況に関する主張です。11月14日の訪日自粛呼びかけでは、「日本の治安が悪化している」「中国人に対する犯罪が多発している」との理由が挙げられました。

しかし、日本の犯罪統計や外務省が公開したデータを見る限り、こうした主張を裏付ける客観的な証拠は示されていません。むしろ日本の治安は国際的に見ても良好な水準を維持しており、中国国籍の人が被害者となる凶悪犯罪の認知件数も横ばいで推移しています。

第二の柱は、国連憲章の「敵国条項」に基づく軍事行動の権利です。11月21日の在日本中国大使館の投稿では、日本などに対して国連創設国が「直接軍事行動を取る権利を有する」との主張が展開されました。この敵国条項は実質的に死文化しているとの見方が国際社会では一般的であり、中国側の主張は国際法の一般的解釈とは異なる内容となっています。

茂木外相の見解 情報発信の必要性

茂木外相は11月28日の記者会見で、中国による一連の主張について明確な見解を示しました。外相は「事実はどうなのか、しっかり発信する必要がある」と述べ、SNSを通じた情報発信の重要性を強調しています。

この発言は、従来の外交ルートだけでなく、SNSという新しいプラットフォームを活用して日本の立場を国際社会に発信する必要性を認識していることを示しています。特に中国がSNSを効果的に活用して宣伝戦を展開している現状において、日本側も同様の手段で対抗する必要があるという判断が背景にあります。

茂木外相の会見では、SNSで日本の主張を展開する意義について言及されました。これは単なる反論ではなく、国際世論形成における情報発信の戦略的重要性を認識した上での方針転換と捉えることができます。今後、外務省のSNS活用はさらに強化される可能性が高いといえるでしょう。

抑制的表現の採用 対立激化回避の戦略

外務省のSNS対応における最も注目すべき点は、反論内容における抑制的な表現の採用です。中国側の主張に反論しながらも、感情的な言葉や過度に挑発的な表現を避け、あくまで客観的な事実とデータの提示に徹する方針が取られています。

この戦略の背景には、SNS上での応酬が激化することで、日中関係全体がさらに悪化する事態を避けたいという外交的配慮があります。情報発信の強化は必要だが、同時に関係悪化のスパイラルに陥ることは避けなければならない、というバランス感覚が表れています。

具体的には、中国側を直接非難する表現や、攻撃的なレトリックを用いることなく、統計データや客観的事実を淡々と提示する手法が採用されています。これにより、国際社会に対しては日本の立場を明確に示しながら、中国との関係をこれ以上悪化させないという二つの目標を同時に追求する姿勢が示されています。

専門家の分析 情報戦の時代

国際関係の専門家は、今回の外務省のSNS対応について、現代外交における情報戦の重要性を象徴する事例として注目しています。従来の外交が政府間の公式ルートを中心としていたのに対し、SNS時代の外交では世論形成や国際的なイメージ戦略が極めて重要になっているとの指摘があります。

特に中国は近年、SNSを含むデジタルプラットフォームを活用した情報発信に力を入れており、自国に有利な国際世論の形成を図っています。こうした状況下で、日本が事実に基づく反論を行わなければ、中国側の主張が国際社会で既成事実化してしまうリスクがあると専門家は警告しています。

一方で、SNS上での応酬には危険性も伴います。感情的な言葉の応酬がエスカレートすれば、実際の外交関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。専門家は、外務省が採用している「事実に基づく反論」と「抑制的な表現」の組み合わせは、こうしたリスクを最小化しながら効果的な情報発信を行う賢明なアプローチであると評価しています。

国際社会と国内の反応

外務省のSNS対応に対する国内の反応は概ね肯定的です。多くの国民が、中国による事実と異なる主張に対して、日本政府が明確に反論することを支持しています。特に客観的なデータを用いた反論手法については、「冷静で効果的」との評価が多く見られます。

一方で、一部からは「もっと強い姿勢で反論すべき」との意見もあります。抑制的な表現では中国側の宣伝戦に対抗しきれないのではないか、という懸念を持つ声も存在します。しかし、外交の専門家の多くは、感情的な応酬は長期的には日本の国益を損なうとして、現在の慎重なアプローチを支持しています。

国際社会からの反応については、特に欧米諸国の外交関係者やメディアが、日本の事実に基づく反論姿勢を注目しています。SNSを通じた情報戦が激化する中で、日本のアプローチは「データドリブン」な対応として一定の評価を得ています。ただし、この問題が日中間の二国間問題に留まらず、地域の安定にも影響を及ぼす可能性があることから、今後の展開が注視されています。

今後の展望 情報発信強化の課題

外務省のSNS対応は今回が初めての本格的な取り組みですが、今後さらに強化される可能性が高いと見られています。茂木外相の発言からも、情報発信を外交戦略の重要な柱として位置づける意向が読み取れます。ただし、効果的な情報発信には多くの課題も存在します。

第一の課題は、迅速性です。SNS時代の情報戦では、スピードが極めて重要です。中国側の主張に対して迅速に反論しなければ、誤った情報が拡散してしまう可能性があります。外務省は今後、より迅速な情報発信体制を構築する必要があるでしょう。

第二の課題は、多言語対応です。現在のSNS投稿は主に日本語と英語で行われていますが、国際世論に効果的に訴えるためには、より多くの言語での発信が求められます。特にアジア地域の言語や、国連公用語での発信強化が今後の課題となるでしょう。第三の課題は、発信内容の質の維持です。抑制的な表現を保ちながらも、日本の立場を明確に伝えるバランスを取り続けることは容易ではありません。今後も事実に基づく冷静な対応を継続できるかが、外務省の情報戦略の成否を分ける鍵となります。