- 倒産件数が過去最多:茶関連業(販売・加工・生産等)の倒産が過去10年で最も多い水準に達した。
- 海外での空前の抹茶ブーム:粉末茶の海外輸出額は6年間で約7倍に急増。八女市でも外国人旅行者の滞在数が前年比2.36倍(九州1位)を記録。
- 「てん茶」需要の急速な拡大:抹茶の原料となる「てん茶」の取引量が前年比で約5割増。農家が相次いで転換。
- 「リーフ茶」の激減と価格高騰:急須で淹れて飲む伝統的な「リーフ茶」の市場流通量が1割減少。仕入れ価格が急激に高騰し販売店を圧迫。
- 大手飲料メーカーとの争奪戦:ペットボトル緑茶飲料の需要拡大に伴い、大手企業が茶葉を囲い込む動きが加速。
空前の抹茶ブームの裏で進む「茶関連業の倒産増加」とは?
いま世界中が空前の「抹茶(MATCHA)」ブームに包まれています。欧米や東南アジアを中心とする健康志向の高まりや日本食人気を背景に、粉末茶の輸出額はわずか6年間で約7倍へと跳ね上がりました。
高級茶の産地として知られる福岡県八女市でも、抹茶スイーツやパウダーを買い求める外国人観光客が急増。2025年における八女市での外国人滞在数は前年比2.36倍となり、九州で1位、全国でも4位という驚異的な伸びを示しています。
しかし、一見華やかに見えるこのブームの裏側で、お茶の生産・加工・販売に関わる「茶関連業」の倒産が過去10年で最多を更新するという深刻な事態が発生しています。消費の現場で一体何が起きているのでしょうか。
なぜ抹茶ブームなのに倒産が増えるのか?
抹茶需要の爆発により原料が買い占められ、伝統的な日本茶(煎茶・玉露などのリーフ茶)を仕入れて売る小規模な茶販売店や加工業者が、仕入れ価格の高騰と急須離れのダブルパンチを受けて経営悪化に陥っています。
てん茶シフトとリーフ茶減少が引き起こした「原料市場の混乱」
抹茶の需要急増に伴い、お茶の生産現場では構造改革が急速に進んでいます。抹茶の原料となる茶葉は「てん茶(碾茶)」と呼ばれますが、八女市の茶取引センターでは2026年、取引されるてん茶の量が前年比で約5割も増加しました。
農家にとっては収益性の高いてん茶へ生産を切り替える動きが自然な選択となります。しかしその反動として、玉露をはじめ急須で淹れて飲む伝統的な「リーフ茶」の取扱量が1割近く減少する事態となりました。
仕入れ価格の急騰と老舗お茶屋の苦悩
市場に出回るリーフ茶の絶対数が減ったことで、入札価格は急激に上昇しています。創業100年を超える老舗『古賀製茶本舗』の古賀祐介会長も、「入札価格が急激に上がり、必要な量を確保するために高く札を入れなければ手に入らない」と切実な現状を明かします。
さらに、近年のペットボトル「緑茶飲料」の市場拡大を受け、大手飲料メーカーが安定した茶葉の調達に向けて大量に買い込む動きを強めています。資金力のある大手企業と茶葉を争奪し合わなければならず、中小の茶販売店は仕入れコストを販売価格に転嫁しきれず、利益を激しく圧迫されているのです。
数字で見る「抹茶ブーム」と「茶市場の変化」
日本茶市場で現在起きている変化を、データと数字をもとにわかりやすく整理しました。
| 項目 | 主な推移・データ | 市場への影響 |
|---|---|---|
| 粉末茶の輸出額 | 6年間で約7倍に増加 | 海外での抹茶需要が爆発的に増大 |
| 八女市の外国人滞在数 | 前年比2.36倍(九州1位・全国4位) | インバウンド客が抹茶を求め茶所に殺到 |
| てん茶(抹茶用)取引量 | 前年比で約5割増加 | 農家が茶葉の生産方向を抹茶用に転換 |
| リーフ茶(急須用)取扱量 | 前年比で約1割減少 | 品薄となり入札価格・仕入れ値が高騰 |
| 茶関連業者の倒産件数 | 過去10年で最多を記録 | 仕入れ高騰と急須離れで事業継続が困難に |
消費者・地域経済・伝統文化へ波及する様々な影響
今回の茶業界の構造変化は、単なる業界内の問題にとどまらず、私たちの日常生活や地域の文化にも波及しています。
1. 一般消費者への影響:高級リーフ茶の値上がり
家庭で急須を使ってお茶を淹れる習慣のある人にとって、原料価格の高騰はダイレクトに響きます。特に八女玉露などの高品質な茶葉は希少性が高まり、店頭価格が値上がりする傾向が強まっています。
2. 地域・伝統文化への影響:玉露など技術継承の危機
八女市は全国品評会で玉露が25年連続日本一に輝くなど、高度な栽培・加工技術を守ってきました。しかし、農家が手間の重いリーフ茶からてん茶生産へと一斉にシフトすれば、長年培われてきた伝統的な緑茶づくりの技術やブランドが失われかねないという心配の声も上がっています。
生き残りをかけた茶販売店の「新しい取り組み」と今後
こうした逆風のなか、老舗の茶販売店や加工業者も手をこまねいているわけではありません。厳しい環境を打破するための新たな戦略が始まっています。
例えば『古賀製茶本舗』では、2026年から新たに抹茶パウダーや専用シェイカーなど、ブームに対応した新しい抹茶関連商品の開発に注力し始めています。伝統的な茶葉の販売だけに固執せず、海外需要や若い世代のニーズを取り入れる工夫を凝らしています。
今後は、「抹茶ブーム」の波に乗って新たな顧客層を開拓しつつ、いかにして日本固有の「急須で飲む茶文化」を守り、価値を高めていくかが業界全体の生き残り課題となりそうです。
よくある質問(FAQ)
✅ まとめ
- 世界の抹茶ブームにより、粉末茶の輸出量が急増し、産地では「てん茶」生産への転換が進んでいる。
- その裏で伝統的な「リーフ茶」の供給量が減少し、入札価格が高騰して中小お茶屋の経営を直撃している。
- 大手飲料メーカーの買い集めや国内の緑茶離れも重なり、茶関連企業の倒産件数は過去10年で最多に。
- 老舗の茶販売店は抹茶製品の開発など、急増する新しい需要を取り込む事業展開を急いでいる。
世界中で「MATCHA」が愛され、日本の食文化が評価されることは非常に誇らしいことです。しかし、その輝かしいブームの陰で、長年日本人の日常を支えてきた急須のお茶文化や、それを届けてきた街のお茶屋さんが姿を消しつつある現実には寂しさを禁じ得ません。
時代の変化とともに、人々の好みが変わっていくのは自然な流れかもしれません。けれど、静かにお湯を注ぎ、茶葉が開くのを待つ時間は、私たちが大切にしてきた豊かな暮らしのひとときでもあります。
空前のブームに湧く今だからこそ、私たちは手軽なパウダーやペットボトルだけでなく、丁寧に淹れた一杯のお茶の価値を、もう一度見つめ直す時期に来ているのかもしれません。






