「魚肉ソーセージ50円」「刺身200円台」「ランチ500円」で庶民の味方として親しまれていたさくら水産。
かつてワンコインランチの代名詞だった さくら水産が、ついに11店舗まで縮小しました。
「給付を検討」するような外部支援がない中、 顧客離れと経営疲弊が進んでいきます。
時代の変化に対応できなければ、 飲食チェーンの衰退は “財源ない”業態から始まります。
この状況は、 フレデリック・フォーサイスの小説に出てくるような 静かな崩壊劇にも重なります。
大衆の心をつかんだあの頃から、 何が変わり、何が失われたのでしょうか。
※この記事では以下のことが分かります
さくら水産の現在の状況【2025年最新】
さくら水産の衰退と復活への挑戦
500円ランチ廃止と新業態「魚がイチバン」の戦略を徹底解析
170 → 11
店舗数の激減
500円 → 1200円
ランチ平均客単価
150%
魚がイチバン九段店の業績
店舗数の推移(2008年~2025年)
さくら水産の歴史
2008年
ピーク時の店舗数170店舗を記録。500円ランチで人気を博し、サラリーマンの強い味方として定着。
2015年
店舗数100店舗まで減少。価格競争の激化と原材料費の上昇により収益性が悪化。
2019年
店舗数39店舗。500円ランチの廃止を決定し、新たな価格帯での営業にシフト開始。
2025年
現在11店舗。新業態「魚がイチバン」を展開し、高単価路線での復活を目指す。
従来店舗 vs 魚がイチバン 比較
項目 | 従来のさくら水産 | 魚がイチバン |
---|---|---|
ランチ価格帯 | 500円 | 1200円 |
ターゲット層 | 価格重視のサラリーマン | 品質重視の魚好き |
店舗コンセプト | 低価格大衆居酒屋 | 魚専門の上質な居酒屋 |
メニュー構成 | 幅広いジャンル | 魚料理特化 |
九段店の売上 | 基準値 | 150%向上 |
復活戦略のポイント
価格帯の見直し
500円ランチから1200円への価格帯変更により、収益性を改善し、質の高いサービスを提供
専門性の強化
「魚がイチバン」ブランドで魚料理に特化し、差別化を図る戦略
ターゲット層の転換
価格重視から品質重視の顧客層へのシフトで、持続可能な経営を目指す
最新の店舗数と営業状況
メニュー価格の変遷
新業態への転換状況
さくら水産の店舗数は、事業規模がピークだった2008年ごろの全国約170店舗から、2025年4月時点では13店舗にまで縮小しています。
東京都内でも4店舗のみの営業となり、かつての勢いは完全に失われた状況です。
現在のランチメニューは1100円から1480円の価格帯に設定されており、看板だった500円ランチは完全に姿を消しました。
昼の平均客単価は、コロナ禍前が500円だったのに対して、現在は1200~1300円程度と倍以上になっています。
一方で、さくら水産から業態転換した「魚がイチバン」は好調な業績を示しており、横浜日本大通り店、西新宿駅前店、九段靖国通り店の3店舗が新業態として運営されています。
最新の活動状況
2025年2月10日より、原材料の価格高騰により、ランチの価格改定を実施するなど、物価上昇の影響は現在も続いています。
また、ご飯のおかわり無料サービスも廃止され、徹底的なコスト管理が行われている状況です。
メニュー価格の変化
現在のさくら水産では、以下のような価格設定になっています:
- 本日の焼き魚定食:1100円
- 生あじフライ定食:1150円
- 本日の特選海鮮丼:1380円
- 魚河岸お刺身5点盛り定食:1480円
かつて100円以下で提供されていた冷奴や納豆などのサイドメニューも姿を消し、ご飯のお代わりも100円、味噌汁の2杯目以降は70円の追加料金が必要となっています。
160店舗から11店舗へ激減した真相

リーマンショック後の外食産業の変化
働き方改革による宴会需要の減退
団塊世代の引退による客層の変化
コロナ禍による決定的な打撃
さくら水産の衰退は、複数の社会的要因が重なって起こった必然的な結果でした。その背景を時系列で詳しく見ていきましょう。
2010年頃から始まった失速の背景には、2008年のリーマンショックが大きく影響しています。
経済状況の悪化により、企業の飲み会予算が削減され、薄利多売モデルで成長していたさくら水産の収益構造に大きな打撃を与えました。
さらに働き方改革の進展により、長時間労働が見直され、仕事帰りの飲み会文化そのものが変化しました。
大人数での利用が減退し、ボリューム層だった団塊の世代も定年を迎えて客足が遠のいていきました。
2015年と2019年の買収による転換
経営難に陥ったさくら水産は、2015年に投資ファンドのアスパラントグループに買収され、さらに2019年には梅の花グループの傘下に入りました。
しかし、買収後すぐにコロナ禍を迎えた不運も重なり、店舗数の減少に歯止めがかからない状況となりました。
テラケン代表取締役の野田安秀氏は「破格なブランドイメージが強烈だったゆえに、高付加価値を押し出す路線にシフトしても客足がついて来なかった」と、過去の成功体験が足枷となった現実を振り返っています。
老朽化した店舗と投資不足の悪循環
急速な拡大の過程で残された大量のテナントは、時間の経過とともに老朽化が進んでいきました。
しかし、薄利多売モデルで疲弊していたさくら水産には、改装やリブランディングに踏み切る体力が不足していました。
結果的に、契約終了に伴い不採算の店舗を閉店する流れが加速し、現在の11店舗という規模まで縮小することになったのです。
さくら水産復活への新戦略「魚がイチバン」の挑戦
さくら水産の凋落は、 単なる価格改定やメニュー変更の失敗にとどまりません。
背景には、長年にわたり築かれてきた 「安さ=価値」の構図が崩れ始めた現実があります。
ランチサービスの廃止後、 利用客の大半が離れたことは、 その構造のもろさを如実に示しています。
経営体力を支える”財源”すら見えなくなった今、 「給付を検討」する動きも 当然望めない業態です。
まるでフレデリック・フォーサイスの小説に登場する 企業のように、 外から見れば静かでありながら、 内部では確実に崩壊が進んでいた ――そんな印象すら与える経過でした。

新業態の店舗業績と成功要因
高付加価値路線への転換戦略
女性客をターゲットにした店舗改装
絶体絶命の状況に追い込まれたさくら水産ですが、生き残りをかけた新たな挑戦として「魚がイチバン」という新業態を展開しています。
横浜日本大通り店、西新宿駅前店、九段靖国通り店は、さくら水産から「魚がイチバン」というブランドに変えた店舗で、業績は着実に回復を見せています。
新業態の業績は以下のように好調に推移しています:
- 九段靖国通り店:2019年比約150%
- 横浜日本大通り店:2019年比約130%
- 西新宿駅前店:2019年比約110%
高品質化による差別化戦略
「魚がイチバン」では、市場直送の新鮮な食材を使用し、従来の安価なイメージから脱却した高品質な海鮮料理を提供しています。
食器類を変え、インテリアも白を基調にして女性でも入りやすい雰囲気にするなど、店舗環境の改善にも力を入れています。
客単価も夜の居酒屋業態で3200~3300円と、以前の1.5倍以上に設定されており、収益性の大幅な改善を実現しています。
安売りからの脱却で得られた投資余力
野田社長は「安売りを継続していけばどんどん疲弊すると思います。
人への投資もできなければ、店舗への設備的な投資もできない」と語り、安売りをやめ、利益を確保できるようになったことで、次への投資ができるようになったと成果を強調しています。
その結果、さらなる質の向上やブランド刷新、人材育成などにつながる好循環が生まれているといいます。
まとめ:さくら水産が教える外食業界の教訓
さくら水産の衰退と復活への挑戦は、外食業界全体にとって重要な教訓を含んでいます。
500円ランチという破格のサービスは、確かに多くの顧客を引き付けましたが、持続可能なビジネスモデルではありませんでした。
赤字覚悟の価格設定は、一時的な集客効果はあっても、長期的な企業成長を阻害する要因となったのです。
現在の「魚がイチバン」の取り組みは、安売り競争から脱却し、付加価値による差別化を図る正しい方向性を示しています。
外食業界においても、単純な価格競争ではなく、品質やサービスによる差別化が重要であることを証明しています。
かつての人気チェーン店が直面した厳しい現実と、そこから立ち上がろうとする姿勢は、変化の激しい外食業界で生き残るための重要な示唆を与えてくれるでしょう。
FAQ
Q1: さくら水産の500円ランチはなぜ廃止されたのですか?
A1: 500円ランチは実は赤字覚悟のサービスで、原価率約50%、人件費30%以上で純利益は10%前後しか残らず、コロナ禍以降は完全に赤字となったため2021年に撤廃されました。
Q2: さくら水産の現在の店舗数はどのくらいですか?
A2: 2025年4月時点で全国13店舗(一部記事では11店舗)まで縮小しており、東京都内では4店舗のみとなっています。最盛期の約170店舗から大幅に減少した状況です。
Q3: 新業態「魚がイチバン」の特徴は何ですか?
A3: 市場直送の新鮮な食材を使用し、白を基調とした女性でも入りやすい店舗デザインに変更。客単価を3200~3300円に設定し、高品質な海鮮料理を提供する業態です。
Q4: さくら水産の衰退の主な原因は何ですか?
A4: リーマンショック後の経済悪化、働き方改革による宴会需要の減退、団塊世代の引退、薄利多売モデルの限界、コロナ禍の打撃などが複合的に影響しました。
Q5: さくら水産は今後復活する可能性はありますか?
A5: 新業態「魚がイチバン」は好調な業績を示しており、安売りから脱却した高付加価値戦略により復活の兆しを見せています。ただし、過去のブランドイメージからの脱却が課題となっています。