建設現場で足場設置や鉄骨組立てなどを担う「とび工事業」の倒産件数が急増し、2026年は110件に達して16年ぶりの高水準となったことが報じられました。
とび工事業全体としては4期連続増収と売上高が伸びて活況を呈している一方で、従業員の退職や求人難といった人手不足を起因とする倒産は前年からほぼ倍増しています。
大手ゼネコンと中小・零細企業における業績や収益性の二極化が進行しており、労働環境の改善や労務費の適切な価格転嫁が業界全体の急務となっています。
- 倒産数が急増:2026年のとび工事業の倒産は110件となり、前年比26.4%増を記録。
- 16年ぶりの100件超え:2010年以来、16年ぶりに年間100件を突破する深刻な水準へ。
- 人手不足倒産が倍増:業績不振が9割を占める一方、退職や採用難による倒産が急増。
- 業界内の二極化:業界全体の売上高は4.5%増で4期連続増収だが、中小零細は赤字が拡大。
- 今後の課題:資材高騰や適正な労務費の確保、若年層の採用・育成体制の再構築が必要。
とび工事業の倒産数が大幅増加!16年ぶりに100件を突破した現状
建設現場を支える「とび職人」が属する専門工事業界で、企業の倒産件数が急速に増加しています。業界全体としては需要が高まり売上を伸ばす一方で、現場を支える中小・零細企業の経営はかつてない厳しい局面を迎えています。
2026年の倒産件数は110件に達し前年比26.4%増加
民間調査機関などの発表に基づくと、2026年におけるとび工事業の倒産件数は110件に達し、前年と比較して26.4%の大幅な増加となりました。年間倒産件数が100件の節目を超えたのは2010年以来、実に16年ぶりの出来事となります。
建設需要自体は底堅く推移しているものの、企業の継続的な資金繰りや人員確保が限界に達し、倒産を余儀なくされるケースが相次いでいます。特に経営基盤が不十分な地域の中小事業者にそのシワ寄せが集中している状況です。
売上増の裏で拡大する「業績不振」と「人手不足」のダブルパンチ
倒産原因の9割以上は業績不振による販売不振や売上低迷が占めていますが、近年顕著になっているのが「人手不足」に起因する倒産です。「従業員の突然の退職」や「募集を出しても応募が来ない求人難」を理由とした倒産は、前年からほぼ倍増しています。
受注機会が存在しても、実際に現場へ派遣できる職人が確保できなければ工事を着工・完了させることができません。売上を立てる前に固定費や人件費が重荷となり、立ち行かなくなる構造が明白になっています。
とび職の役割と専門工事業界が抱える構造的課題
建築現場において「花形」とも呼ばれるとび職ですが、その業務は多岐にわたり、専門性の高さと安全管理の厳しさが求められます。ここでは職種の役割と業界の構造的な仕組みについて解説します。
足場・鉄骨・仮設工事を担う「とび職(仮設・鉄骨・重量工)」とは
とび工事業は、建築物や構造物の施工工程において最初期から最後まで必要不可欠な専門工事を担当します。具体的には、作業員が安全に作業するための「足場組立て」、鉄骨造建築の骨組みを組み上げる「鉄骨工事」、重機や大型機材を設置・移動させる「重量物据え付け」などが主な業務です。
高所での作業が多く危険を伴うため、高い技術力と専門的な技能資格が必要とされます。現場全体の安全と施工スピードを左右する極めて重要なポジションであり、建設業界の要として位置づけられています。
「4期連続増収」の全体傾向と中小零細企業の赤字構造
とび工事業界全体の売上高は、前の年度と比較して4.5%増加しており、4期連続の増収と数値上は活況を呈しています。これは大規模都市再開発やインフラ老朽化に伴う改修工事の需要が旺盛であるためです。
しかし、この増収傾向は主に資金力や価格交渉力を持つ大手・中堅ゼネコンや一次下請け企業に偏っています。三次・四次下請けなどを担う中小・零細企業では、資材価格の高騰分や人件費の上昇分を受注価格に十分に転嫁できず、売上が増えても利益が残らない「黒字倒産」や「赤字の常態化」が頻発しています。
| 区分 | 業界全体の動き | 中小・零細企業の現状 | 主な要因・背景 |
|---|---|---|---|
| 売上・業績 | 4期連続の増収(前年度比+4.5%) | 赤字企業の割合が増加・二極化 | 再開発需要の継続と資材価格の高騰 |
| 人手・採用 | 全体的な職人不足・高齢化 | 退職による過重負担と求人難 | 他業種との採用競合、若手離れ |
| 倒産傾向 | 110件(16年ぶり100件超え) | 前年比26.4%増(人手不足は倍増) | 価格転嫁の遅れと労務費負担の上昇 |
人手不足の背景と建設業界全体へ及ぶ影響
とび工事業界で人手不足倒産が倍増している背景には、単なる景気の波にとどまらない長期的・構造的な要因が存在します。
職人の高齢化と若手入職者の減少が招く慢性的な人員不足
建設業界全体で高齢化が進む中、とび職人の高齢化と若手の入職率不振は深刻な課題となっています。身体的負担が大きいイメージや、天候に左右される作業環境などの理由から、若年層の採用が難航する傾向が続いています。
熟練職人の定年退職が進む一方で、技術を引き継ぐ若手が不足しているため、一人当たりの負担が増加しています。これにより、既存社員の離職がさらに進むという悪循環に陥っている企業が少なくありません。
工事遅延リスクの増大とゼネコン・施主への波及効果
とび事業者の倒産や人員不足は、該当企業にとどまらず、建設プロジェクト全体に直接的な影響を及ぼします。足場設置や骨組み施工が遅れることで、後続の塗装、内装、設備工事など全ての工程がストップするリスクが高まります。
結果として工期の遅延や人件費の膨張を引き起こし、元請けであるゼネコンや建築を発注した施主・企業にとっても大きな損失につながる懸念があります。
- 倒産した110件の企業における正確な負債総額および地域別の詳細な割合
- 2026年後半に向けた建設資材価格および労務費の具体的な推移予測
- 行政による下請け保護施策や価格転嫁是正措置の追加導入の有無
今後の焦点と持続可能な業界環境構築への課題
16年ぶりの高水準となった倒産件数を歯止めにかけるためには、業界構造の是正と働き方改革の推進が不可欠となります。
適正な労務費の確保と下請け構造の見直し
最も大きな課題は、実際に現場で作業を行う下請け事業者に対して、十分な労務費(人件費)が支払われる適正な取引環境を整備することです。発注者や元請け企業に対する適正取引の周知徹底が必要です。
労務費の転嫁が進まなければ、中小事業者は職人の給与を引き上げることができず、他業種との人材獲得競争に敗れ続けることになります。公正な価格決定メカニズムの構築が強く求められています。
労働条件の改善とICT・省力化技術の導入促進
若年層の確保と定着を推進するためには、週休2日制の確保をはじめとする労働環境の改善が欠かせません。安全衛生管理の徹底とあわせて、安心して長期的に働ける制度設計が求められます。
また、足場資材の軽量化や自動化技術、ICTを活用した工程管理などの省力化技術を積極的に導入し、少ない人数でも安全かつ効率的に施工できる体制を整えることが今後の生存戦略となります。
- 取引先の経営状態:発注・下請け企業の資金繰りや人員体制に無理がないか確認する。
- 適正な見積もりと価格転嫁:労務費の上昇や資材高騰を反映した適正価格で契約が結ばれているか。
- 工期と人件費の計画:人員不足による施工遅延リスクを織り込んだ余裕のある工程表か。
A.業界全体では再開発需要等により売上が伸びていますが、資材高騰や人件費上昇分を十分受注価格に上乗せできない中小事業者が多いためです。また、受注があっても現場を動かす職人が不足して施工できず、倒産に至るケースが増えています。
A.従業員の退職や新しい人材の採用難によって現場の稼働能力が低下し、事業継続に必要な売上を確保できなくなったり、人件費・採用コストの増加により経営が行き詰まったりして倒産する状態を指します。
A.影響します。足場設置や構造体の組立ては住宅・マンション・商業施設などあらゆる建築に不可欠なため、職人不足は工期の遅れや建築コストの上昇として一般の不動産・住宅市場にも波及します。
A.元請け企業から下請け企業への適切な労務費の支払いや価格転嫁の徹底、週休2日制導入などの労働環境改善、省力化技術を活用した作業効率化が強く求められています。
- 2026年のとび工事業倒産は110件で、16年ぶりに100件を超える高い水準となった。
- 業績不振が倒産の9割を占める一方、採用難や退職による人手不足倒産が前年比でほぼ倍増。
- 業界全体の売上は4期連続増収だが、収益の偏りと中小企業の赤字構造が顕著になっている。
- 人員不足は工事の遅延やコスト増加を引き起こし、建設業界全体へ波及するリスクがある。
- 適正な労務費の確保、価格転嫁の推進、労働環境の改善による若手の確保が今後の課題。
建設現場の安全と施工を支える「とび工事業」における倒産の急増は、単なる一業界の課題にとどまらず、日本のインフラや建築維持管理全体に関わる深刻な構造問題を示しています。
今後は、適正な価格転嫁や労務費の確保が進むかどうかが焦点となります。事業の継続と職人の労働環境改善に向けた官民一体の取り組みや、関連する制度改正の動きについて注視していく必要があります。
出典:All Nippon NewsNetwork(ANN)「現場の花形“とび職”倒産最多ペース 16年ぶり100件超え 人手不足で倒産ほぼ倍増」



